ルーフィング(防水紙)を張り替えれば雨漏りは直る?
ルーフィング(防水紙)を張り替えれば雨漏りは直る?
こちらの記事ではお問い合わせや御質問で多いルーフィング(屋根下葺き防水材)が破損している場合、雨漏りするのでしょうか?こちらの疑問にお答えさせて頂こうと思います。どうぞよろしくお願い致します。
私が個人的に屋根現場に従事してきた事実から少し専門性のある長い記事とはなりますがメンテナンス時の御参考として下されば嬉しく思います。
(またこちらの動画にて今回の記事の御説明をさせて頂いております。よろしければ合わせてご利用下さい)
ルーフィングが無くても雨漏りしない理由
結果から先にお伝えさせていただきますが基準風速30m前後の平野部の穏やかな環境の屋根瓦はルーフィングがたとえ無くても雨漏り致しません。
現在・葺き替え時にルーフィングを用いる理由はあくまで施工時の職人の足元の安全確保及び滑り止め・施工途中の雨仕舞い・若干の断熱と遮熱以外意味を持っておりません。
沖縄や八丈島当のスコールや暴風雨が頻発する地域、基準風速が40m前後の屋根のみこのルーフィングが雨漏りを止める為の構造材の一部として機能している様です。この地域でご活躍される屋根屋さんはルーフィングを二重張りにしまた釘1本打つにしても垂木以外の屋根下地に貫通させない工法を取っておられます。
私は大阪の屋根屋ですので上記考察をそのまま大阪近隣平野部にあてはめる事は過剰施工の温床となりますので避けなければなりません。
例を挙げますと工場の屋根などは鉄骨にそのまま化粧スレートを施工した屋根が多くルーフィングはおろか下地材木すらありませんし、高さ6m以上の建造物が多く環境は一般のご家庭より厳しい立地であるにも関わらずスレートの破損及び施工不備以外は雨漏りすること無くその機能を維持しています。
基準風速とは
【基準風速】とは台風時の記録に基づく物とされています。地域によって風害の発生頻度にもばらつきがあるということで御座いますね。
その地方における過去の台風の記録に基づく風害の程度その他の風の性状に応じて 30m/秒から46m/秒までの範囲内において国土交通大臣が定める風速
地域別風速(国土交通省告示1454号)
ルーフィングで雨漏りを止めるという誤解
では何故?瓦屋根等の一次防水建材で雨漏りを止めている訳では無く、ルーフィングで雨漏りを止めているという発想がうまれたのでしょうか?原因として考えられる物をいくつか列挙してみましょう。
①適合勾配を無視した施工による雨漏りが頻繁に起こった事
②水返しの甘いもしくは無い建材が出回った事
③屋根材の重ね目に溜まる埃が毛細管現象雨漏りを生み出す年代になったこと
④山間部宅地造成など風圧を受けやすい屋根が沢山生まれた事
これらの理由によりルーフィングで雨漏りを止めているという発想に繋がったのだと思われます。順を追ってご説明いたします。
①の屋根勾配に準じた適合建材を使用しているかどうか?
もう少し深く考えますと、④のその立地での環境を熟慮した適合建材を使用しているかどうか?この二つは非常に重要で、これを無視しますとルーフィングが有っても無くても雨漏りしてしまいます。簡単に雨水が逆流する屋根も存在しているという事であります。
※その場合例え体感・目視出来ない雨漏りでも野地板その他構造材木の腐朽は避けられません。)現在各屋根材には雨水を排出できる適正勾配が明記されており必ずその勾配以下の施工は避ける様に注意が促されておりますが実際の判断は我々の様な現場解体から学ぶ経験・考察でしか判断出来ない事も事実として存在しています。一例としまして平野部と山間部では全く環境が異なりますので仕様書を鵜呑みにする事はなかなか難しいところでも御座います。
さて実際に何故そのような屋根が施工されたのでしょうか?その一つは誰でも施工可能な新建材の台頭と設計者のミスから派生した物とも考えられます。ミスは誰にでもありますので仕方ありませんが40年前に仕様書に適合勾配等の明記があったかどうか?今となっては知る由も御座いません。
また誰でも出来るという事は建材は広く普及して仕事に漏れる方も減り、受け手は安価を享受できる素晴らしい一面もございますが、雨や風がその立地で何をしてくるのか考察に及べない方でも施工出来るという一面も同時に発生するという事実が残ってしまいました。
(決して揶揄ではなくて事実がそうだったのではないかと捉えている次第です。そうでないとルーフィングで雨漏りを止めるという発想にも至らないからでありますね)
緩勾配不適合建材使用屋根の一例
例えばこちらの写真の屋根はルーフィング云々以前の問題となります。
こちらの屋根はアスファルトシングル屋根といいます。本来は板金屋根にしなければならない屋根勾配です(1寸勾配)にアスファルトシングル屋根を施工(4寸勾配~施工した方がいい)適合勾配が3寸も足りませんから竣工当時から雨水が捌け難い屋根ということであります。この様な事実により②の水返しの甘いもしくは無い建材が出回った事にもその因果は続いてまいります。
②水返しとは?
水返しとは暴風雨等で一時的に瓦内部に侵入してくる雨をルーフィングに落とさないで外へ排出する突起や溝の事を言います。瓦屋根でしたら上の写真のせりあがった突起部位の名称のことであります。
屋根材で一番重要と言っても過言でない程この水返しと先の①の適合屋根勾配が雨漏りしない屋根の生命線となります。実際の暴風雨時におきましては下記写真の青い点まで雨水は這い上がってくる場合があるからです。それでは次にどの様な風向きの時にこの水返しまで雨水が這い上がって来るのかをご説明させて頂きます。
暴風雨時・どんな風向きの時雨が隙間から侵入するのか?
絵で御説明いたしますとこちらが普通の雨の瓦屋根の雨水の流れです。穏やかに雨水は流れ問題御座いません。
※暴風雨時※
緑の矢印から吹いてくる暴風雨は日本瓦の構造上雨漏りしません。赤の矢印から吹いてくる暴風雨は水流を止められ黒点の水返しまで雨は干渉し続けます。
同じ暴風雨でも日によって漏れたり漏れなかったりする原因でございますね。
雨水自体の重力が風に負けない様にする為には、必要な屋根の勾配を的確に見抜く事と水返しで雨水を返せるか?返せないか?が最重要項目でこの役目はルーフィングでない事を御理解して頂ければ幸いです。
水返しの無い屋根材とは?
モニエル瓦/センチュリオン/ホームステッド
水返しの無い屋根材の代表は下記写真のモニエル瓦
緩勾配不適合建材+塗装による劣化塗膜が堰となり雨漏りしています。
(現在は販売中止となっております)
薄型化粧スレート/ニチハパミール等
こちらの写真はカラーベストやコロニアルと呼ばれる薄型化粧スレートです
※緩勾配不適合建材使用屋根+塗装。スリット(継ぎ目)から入った雨水が排出出来ず釘穴に干渉して雨漏りしています。(現在でも発売中)
セキスイ瓦U/大和スレート等
こちらは緩勾配でも施工可能と言われたセキスイ瓦Uの写真です。
この屋根材は緩勾配対応にするために瓦の重ね足が長い事が特徴ですが緩勾配屋根で使用すると堆積する埃と比例して停滞する雨水の量も多くなり躯体裏面の水の浸透率が高い部位に対する防水能力が低く加えて軽量故、厚みが無いので膨張した躯体が吊り子の緊結で逃げ場を失う事により躯体その物が裂傷してしまう場合がある建材で御座います。
ですので緩勾配屋根には結果として向きませんでしたね。
このような中での緩勾配の化粧スレートに塗装によるメンテナンスは塗膜が躯体内部からの水分蒸発ですぐに浮かされますので殆ど意味がないという事になります。(現在販売中止となっております)
緩勾配不適合コロニアル屋根の雨漏り修理に緩勾配不適合コロニアル葺き替え工事。2015年に調査させていただきました。※再漏水しておりまして、もう気の毒としか言い様が無くて私がへたり込んでおります※
これらの屋根材は水返しがありませんので屋根勾配は水返しのある屋根材よりきつく取る必要があります。
屋根勾配を考慮せずに屋根塗装すると雨漏りを誘発しやすい非常に危険な建材ということになります。
私は強風地域はもとよりこれらの水返しの無い建材を使用する場合4寸以上の勾配は必須と考えておりますが、それ以下の勾配で施工した場合の雨漏りの原因がルーフィングで雨漏りを止めるといった発想に繋がってしまったものと思われます。
続きまして適合勾配の屋根で尚且つ水返しもある屋根材の平部の雨漏り原因として経年で溜まる埃堆積の毛細管や劣化塗膜が作る堰など③の内容の御説明をさせて頂きます。
③毛細管現象による雨漏り
雨の中には水分だけでなく多量の不純物が混在して降って来ますので屋根材の重ね目にも雨が運んできますチリ・黄砂や埃が堆積してしまいます。この堆積した埃が雨水を吸い上げて屋根下地に干渉させてしまう現象を毛細管雨漏りといいます。木の根が重力に逆らって水を吸い上げたり、スポンジを水に浸すと重力に逆らって吸い上げたりする現象と同じでありますね。
※吸水率が高くなりましても瓦自体が雨を通す事はありません※
こちらの写真の様に、沢山の埃の堆積がみられます。この部位の清掃で雨漏りは完治致しますが、水返しの無い屋根材や、突起が低い建材の場合には清掃と共に人工的に水返しを施設致します。
(施工例)
水返しの無いモニエル尻にシリコンで水返しを付けて雨漏りを止めます。ルーフィングは張り替えません。ルーフィングに雨水が干渉する根本を改善しているということでありますね。
こちらの写真はルーフィングが最初から無い適合勾配瓦屋根の雨漏り修理の写真となります。
築50年弱で初めての雨漏りでしたが埃堆積の原因は近隣環境の変化ですね。高層建築物等が近辺に建ち並び50年前とは屋根に干渉する風圧が変わってしまったことにより一部分で埃堆積量が上がった事が原因です。
ですから雨漏りが発生する場所は一部でして他の部位はまだ雨漏りしていない屋根でありました。
※ルーフィングが無い事で小屋裏の換気性能は申し分無く尚且つ結露の発生頻度も低く温度差が激しい冬場の日でも葺き土が真っ先に発生した結露も吸収してくれます。瓦の高耐久を具現化しているこの屋根にルーフィングもシリコン瓦止めも必要ありませんしもちろん葺き替えも要りません。ポイントの修理で充分です。
④風圧が変わる主な要因
築年数と共に、周りの建築物の様相も変化して行きます。時にはそれがビル風や家屋風を呼び思わぬ風量を作り出す場合も御座います。写真の瓦屋根の雨漏りの原因と考えられる事象は後に建てられたビルによるビル風少なからず関与しているものと推察されますね。
この様な瓦屋の雨漏りの場合は瓦尻に清掃と水返しを施設致します。これで雨漏りは直ります。土葺きの瓦屋根は多少の毛細管雨漏りが発生しても葺き土が二次防水の役目をなしておりましてルーフィングで雨漏りを止めているのでは無いという事を御理解して頂きたいと思います。また、水返しを施設せず販売した建材は古来からある土葺き日本瓦の二次防水としての役割に気付けなかったからだと思われます。
!!ポイントは
清掃と水返し!!
(ルーフィングを張り替えなくても御自分で安全を確保出来る様でしたらDIYでも必ず防風雨時の雨漏りは直せます。)
雨漏りしている部分だけルーフィングを張り替える事は出費も僅かでしょうからさほど大きなご負担にはならないでしょう。ペフ(折半金属屋根に貼ってあるスポンジ状の建材)同様に結露防止の役目を担う部位も御座います。ですが
ルーフィングが破れているので雨漏りします。
屋根全体のルーフィングの交換が必要です。
この様な調査内容をお受けになられた時は慌てないで頂きたいと思います。
ルーフィングの歴史は最初から穴だらけです
長年雨漏りしなかったのは土止め桟木を打つ際最初からルーフィングの始祖ビニトン等は穴だらけにも関わらず、また軒鼻モルタル仕上げでルーフィング上を走る雨水が抜けようも無い設計であっても軒折れもモルタルの滑落も全くないのはルーフィングが雨を止めていたからでしょうか?
これから屋根雨漏りのメンテナンスをお考えの方へ
雨漏りを直す方法として緩勾配不適合建材使用屋根や著しい劣化・損傷を伴う屋根以外でルーフィングの交換・張り替えが必要と診断された方は、今一度御熟慮して頂きますよう宜しく御願い致します。
ルーフィングを張り替えて直る雨漏り?まとめ
実例としましても30年以上・2000軒弱の屋根診断及び施工、築7年~築230年の屋根でルーフィングの破れや破損が雨漏りの原因と診断した事は一軒もありません。全て上記考察に準じ完治させて頂いて参りました。これが事実です。
日本の城の天守の屋根は相当な風圧が予想される為に竣工当時からルーフィングが存在しない時代から急勾配であります。最後に瓦屋根平部の雨水がルーフィングまで関与した雨漏りは当店に於きましては全修理工事の5%にも満たない事をお伝えして終わらせて頂きます。ありがとうございました!
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